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子宮頚がんワクチン

日本では、(上皮内ガンを除いて)毎年約1万人が子宮頚ガンとなり、そのうち約3000人が亡くなっています。女性の悪性新生物の中でも上位になる疾患です。子宮頸がんは、ヒト・パピローマウイルス(HPV)の長期間の感染が原因で引き起こされることが解明されています。子宮頸がん(HPV)ワクチンは、そのウィルスの感染を防ぐ効果があり、子宮頚ガンの発生率を 1/3 以下、または 1/10 以下に減少させるとされています。

【 ヒト・パピローマウイルス(HPV)とは】

HPV は100種類以上ありますが、大きく「低リスク型」と「高リスク型」に分類されます。

このうち、高リスク型HPVは、子宮頸がんをはじめ、膣がん、外陰がん、肛門がん、陰茎がんなどの原因となり、13種類の型(16、18、31、33、35、 39、45、51、52、56、58、59、68)があります。日本人の子宮頸がんや子宮頸部異形成発症の原因で多いものは、16型・18型・39型などです。これらのHPVハイリスクグループ 13 種類に感染し ているかどうかを、遺伝子レベルで検出する検査が可能です。

このウィルスの長期間の感染により、子宮頚部粘膜の細胞に異常が起こり、ガン化がおこります。

このウィルスに感染しても、その 90% 程度ではウィルスは自然に排出され、感染は消えます。ですから、すべての感染者でこれが起こる事はありませんが、再度感染する可能性もありますので、注意は必要です。

一般的な病原性ウィルスは全身的な感染を起こし、血液中にも検出されることが多いです。このため、白血球(リンパ球)を中心とした免疫によって創られる抗体が、ウィルスを破壊したり排除したりします。

この HPV は、他の多くの病原性のウィルスとは異なり、上皮粘膜にのみ感染します。粘膜そのものは皮膚と同じ構造ですので、その中に血管の構造はありません。そのため、このウィルスに感染しても、リンパ球が接触することはなく、免疫系が発動されることはありません。そのため、抗体が自然に作られることは無いとされています。疣贅(イボ)の多くも HPV 低リスク型による疾患ですが、何度でも繰り返しできる方は多いですね。

そのために、このウィルスに対して創られたワクチンは、独特の機構を持っています。

【 子宮頚ガンワクチンとは】

ワクチンは、大きく分けて、弱毒化ワクチン、不活化ワクチンなどに分けられています。これらは、ウィルスを不適格な環境で培養することによって毒性を弱める、という方法や、培養したウィルスを熱や化学物質などにより処理した物を使います。これらを投与することによって、その抗体を作らせ、ウィルスが侵入してきたときに増殖を防ぐ、という機構で作用します。

子宮頚ガンウィルスは、これらとは全く異なる、サブユニットワクチンという仕組みで作られています。

これは、ウィルスを増殖させ、その表面タンパクを作る遺伝子を取り出し、それを別の細胞に組み込み作用させることで、ウィルスの表面だけを作らせます。これをVLP(Virus Like Particle : 増殖能を持たないウイルス様粒子のこと)と呼んでいます。下痢発熱をおこすノロウィルスのワクチンにも使われている方法です。これは、みかけはウィルスそのものですが、ウィルスが増殖するための内部の遺伝子を持たないため、自己増殖することは無く、病原性は全く持ちません。しかも、工業的に大量生産することが可能で、効率よくワクチンを作成できます。

これだけでは作用が弱いため、アジュバントとよばれているいわゆるブースターを同時に投与することで、効率よく免疫を獲得できます。このアジュバントは、B型肝炎ワクチンなどにも使われています。

【 子宮頚ガンワクチンの投与】

HPVは性交渉により感染します。性交渉経験が無いうちにワクチン接種することでこのビールスの感染は予防できますので、中学生の間に予防接種を行うのが理想とされています。
また、HPV検査を行い、陰性であることが確認されれば、ワクチン接種の意義は大きいです。
ただ、現在市販されているワクチンはハイリスクHPVの2個の型(HPV 16型・18型)に有効で、その他の型への完全な効果はありません。なお、ガーダシルは、尖圭コンジローマなどの原因のHPV 6型と11型にも有効です。

より多くの型のHPVに対して有効な新しいワクチンが発売され、9種類のビールスに有効なワクチン(ガーダシル9)が使われています。さらに将来のワクチンではウィルスの排除も期待出来るかもしれません。

【 子宮頚ガンワクチンの副作用】

このワクチンの投与後に、副作用が起きたと、マスコミによってセンセーショナルに非常に過度に煽った報道がされた事がありました。

このワクチンの接種後に、脱力感や慢性疼痛などの症状を訴える方がいます。それらの同じ症状を訴える方は、同年齢の方で見られる事があり、ワクチン接種を行っていない方でも同じ割合でみられています。

2015年12月、名古屋市において、市内在住の7万人の若い女性を対象にワクチンの副反応が考えられる症状について調査が行なわれました。月経不順、関節や体の痛み、光過敏、簡単な計算ができない、簡単な漢字が書けない、不随意運動など、マスコミで繰り返し報道されてきた子宮頸がんワクチンとの因果関係を疑うとされる24種類の症状について調査され、年齢補正前の統計でワクチン接種群には月経量の異常、記憶障害、不随意運動、手足の脱力の4つの症状が多くみられ、ワクチン非接種群には体や関節の疼痛、集中できない、視力低下、めまい、皮膚の荒れ、等が多く見られ、また24の症状に関与する要素についても検討されました。ワクチンの種類や病院受診の有無、など様々なクロス集計も実施されました。その結果、症状の有無と関連があったのは年齢のみで、ワクチンの接種は無関係という結果が出ています。さらに、年齢で補正すると、接種群が非接種群より有意に多い症状は1種類も無く、むしろ、年齢補正後の接種群は有意に少ない症状が目立っています。これらを元に『接種者と非接種者で統計的に明確な差は確認できない』との見解をまとめています。

つまり、マスコミの報道は、ワクチンを受けた人に起きた症状のみを見て、ワクチンを受けていない人にも起きている事実を無視した報道だったことは明らかです。意図的に無視した可能性もあります。

ただ、この結果は、患者団体からの圧力という政治的な背景で、数値の報告のみになってしまっています。マスコミはこの情報を無視しており、これの詳細な報道は一切行っていません。

そのために、厚生省はその接種を推奨しないという判断をおこなっています。これは、接種を行わない、という意味ではなく、希望者には接種を継続して行っています。当院でも、多くの接種を行っています。

WHOは、そのような状況を、本来子宮頸がんにならなくて済む女性に対して、非常に大きな危険性を享受させている、として、異例な形で日本を名指しで批判しており、国際的な批判が強くあります。マスコミは、この批判も一切報道していません。

学術的な意味、病理的な意味で、このワクチンは非常に多くの女性を子宮頚ガンから救うことのできる予防です。実際、欧米などのワクチンを実施している組では、子宮頚部異形成などの異常率が、徐々に低下してきているようです。数年後には、子宮頚ガンの発症率が数分の1になることが予想されています。これが世界の流れです。

すべてのワクチンに対して副作用は出ていますし、死亡者もゼロではありません。そのワクチンを接種していないと発病するため、それによって死亡する率が多くなるのでしたら、ワクチンを接種する意義は十分あると考えたほうがいいでしょう。

誤った情報に流されず、積極的にワクチンを接種されることをお勧めします。

世界保健機構(WHO)、日本産婦人科学会、日本産婦人科医会は、子宮頚がんワクチンの接種を推奨しています。

 

2021年になり、ワクチンを接種した年代での子宮頚部異形成 ( いわゆる前がん状態 ) が減少し、非推奨年代で従来の発生率に戻っていることがはっきりしてきました。厚生省も、2021 年秋に、摂取は非推奨だが、摂取の案内を行うように市町村宛てに通達を出しています。(推奨するのでは無い、という意味を含めるよう指示されていました)保健衛生を司る官庁として、適切かどうか問われる対応だと思います。

その後、2022 年 4 月より非推奨をやっと解除し、、定期の予防接種として開始しています。また、非推奨期間に接種を受けられなかった、平成 9 年度以降に出生された方へ、3 年間の期間限定で接種を行うことになりました。接種巻が届きますので、是非接種を受けてください。

なお、非推奨期間の間に、自己負担で接種を受けられた方がいらっしゃいます。その方への費用補助などの対応している市町村もあるようです。問い合わせてみてください。

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