妊娠中の検査
妊娠初期に、感染症などの検査を行なう事が母体保護法で求められており、このデータは、妊娠経過を通して胎児の発育、新生児の経過を観察していく上で、非常に重要な情報です。またこれらの血液検査に加え、妊娠中期に腟帯下の検査、血液型不適合妊娠の検査を行っています。
これらの検査は正常な妊娠に伴うもので、保険診療とはなじまない検査とされていますので、健康保険給付の適応になりません。従って、全額自費または公的な補助で検査を行います。
検査の必要性について説明をし、ご理解頂いた上で各種の検査をさせていただきます。
全員に行っている検査
血液型(ABO、Rh)、不規則抗体
血液型は重要な基本情報です。新生児との血液型の組み合わせで、新生児に溶血(赤血球が壊される)が起き、黄疸が出たり、次の妊娠の際に大きな影響を与える事があります。
不規則抗体は、血液型不適合妊娠の検査です。血液型は、ABO、Rh以外にもたくさんあり、母児の血液型の組み合わせによっては、重症の黄疸を起こす事があります。この検査で異常値が出た方は、詳しい検査を行います。
貧血、血液凝固能検査(妊娠34週)
貧血は、妊娠中に多くみられます。妊娠初期の貧血は早く治療を開始する必要があります。
血液凝固能(血液が固まり、止血する機能)に異常があると、分娩時の大量出血につながります。異常があれば、帝王切開術が必要になる事もあります。
血糖(随時血糖、糖負荷試験)
血糖は、糖尿病の検査です。妊娠中の糖尿病は、母児への影響が大きく、治療が必要です。
初期検査として、随時血糖(任意のタイミングで採血)を測定します。
中期検査として、糖負荷検査(50gGCT)を行います。50gのブドウ糖を摂取し、1時間後の血糖を測定します。
これらの検査で異常となった方は、必要に応じて精密検査(75gOGTT)を行います。絶食後に、空腹時の採血を行い、75gのブドウ糖を摂取した後、1時間、2時間で採血し、それぞれの血糖を測定します。検査で異常となると、糖尿病、または、妊娠糖尿病と診断されます。
梅毒
梅毒は、原虫(スピロヘータ)が原因の性病です。梅毒の方が妊娠したり、妊娠の初期・末期に感染すると、新生児に梅毒が感染する事があります。胎児期に感染を起こすと、脳の発育に障害がおこることがあります。抗生剤で治療する事が出来ます。
B型肝炎ビールス、C型肝炎ビールス
肝炎のビールスは、分娩の際に新生児に感染を起こす事があります。B型肝炎では、グロブリンやワクチンを投与する事で感染を防止する事が出来ます。
風疹ビールス
風疹は、いわゆる三日ばしかです。妊娠中に感染すると、胎児に大きな奇形(心奇形、聴力障害、白内障など)を起こす事があります。
学童期に予防接種を受けておられる方が多いのですが、完全に免疫が出来ていない方もいらっしゃいます。免疫のない方は、周囲の方を含めて感染しないよう注意が必要です。また、抗体価の低い方(16未満の方)は、出産後に予防接種を受けられる事を、強くお薦めします。
成人T細胞白血病ビールス(ATL)
成人T細胞白血病ビールスは、胎盤を通して、または、母乳を通して感染する可能性が高いビールスです。白血病の発病率は1%未満と言われていますが、感染から50年位で発病する可能性があります。新生児への感染率を低下させる手段があります。
後天性免疫不全症候群ビールス(AIDS)
いわゆるエイズです。発病すると免疫力が低下し、さまざまな病気を起こします。胎盤を通し、または、分娩時に母体の血液を介し、新生児に感染します。エイズの発病を抑える薬を使い、帝王切開で出産すると感染率を低下させることができます。
腟帯下細菌検査(妊娠24週、妊娠34週)、子宮頚管クラミジア検査(妊娠初期)
腟帯下(おりもの)の中の細菌を調べます。その中でB群溶血性連鎖球菌(GBS)は常在菌ですが、新生児に重篤な肺炎や髄膜炎を起こす可能性があり、出生後注意が必要とされています。分娩時に抗生剤を投与する事で予防できる可能性が有り、陽性の方では希望者に実施しています。
同時に子宮頚管のクラミジアを調べます。クラミジアは、細菌と似た病原体で、性行為によって感染します。子宮頚管炎を起こす事があり、前期破水(分娩時期になる前に破水する)を起こしたり、早産や新生児結膜炎の原因になることがあります。抗生剤で治療が可能です。
胎児胎盤機能検査(妊娠34週〜)
胎児検査として、胎児心拍の傾向を調べるノンストレステスト(NST)を健診毎に行います。必要に応じて、胎盤の機能そのものを表すとされる胎盤性ラクトーゲン(hPL)、胎児母体を含めた胎盤機能を表すとされるエストリオール(E3)を測定します。
胎児エコー検査
希望者に行っている検査(検査をお薦めしているもの)
トキソプラズマ
主にネコを媒介とする原虫です。日本人の不顕性感染(感染したが発病しなかった)率はかなり高いとされています。妊娠中に感染すると、原虫は、胎盤を通って胎児へ感染する事があり、目の脈絡膜や脳へ侵入すると、様々な障害を起こす事があります。陰性の方では、生肉の摂取や土中の包虫でも感染の可能性が有り、生肉の摂取や、素手でのガーデニングは避けていただく事が望ましいです。
サイトメガロビールス(CMV)
小児の排泄物などから感染が起きます。ほとんど症状を起こさないビールスですが、妊娠中にCMVに初めて感染した場合、胎児に重い後遺症を残すことがあります。重症の場合には肝臓の腫大、黄疸(おうだん)、出血などの症状に加え、難聴、小頭症、頭蓋内石灰化などの脳神経系の異常により、脳の発達障害、てんかん等を引き起こしたり、呼吸障害をおこしたり、胎児死亡や新生児死亡に至ることもあります。
その他、パルボビールスB19、染色体検査(胎児染色体検査:クワトロテスト、NIPT検査、羊水検査)など、御希望があれば御相談下さい。